DETAIL
【ザ・ドリーム・シーン】
「BLACK SMOKERからの無謀ながらも勇気あるオファーで、僕が初めての、そして唯一のミックスCDを出したのは、気が付けばもう6年も前のことです。
あの時よりはもっとシンプルな思考と心持ちでミックスしました。
曲の連鎖から自ずと作られたものだと言えるかもしれません。
それもこれも、伊藤桂司さんの「SOUND OF MAGIC REALISM」を始め、『ザ・ドリーム・シーン』に描かれたそれぞれの作品が促してくれたものだと思っています」原 雅明より。
このミックスは、『ザ・ドリーム・シーン 夢想が生んだ架空のコンサート・フライヤー&ポスター集』(DU BOOKS刊)のために伊藤桂司氏が描いた作品「SOUND OF MAGIC REALISM」からインスパイアされて生まれたものだ。
この架空のコンサート・ポスターを構成している、ブリコラージュされたアフロセントリックな世界が引き金になっている。
マジック・リアリズムという概念自体は、文学や美術の世界で表現技法の一つとして使われてきた。
夢や幻想、あるいは神話のような背景に現実的な出来事を組み合わせる表現は、特にラテン・アメリカ文学の中で有名となったが、
音楽リスナーは、「SOUND OF MAGIC REALISM」でも描かれたデヴィッド・バーンとブライアン・イーノの『My Life In The Bush Of Ghosts』で、
そう意識せずともマジック・リアリズムを聴いている。
この仮想のワールド・ミュージック〜ファンクは、マジカルな編集が現実と非現実を繋げるように作られたからだ。
イーノとの共演でも知られるトランペット奏者ジョン・ハッセルは、そのものずばりの『Aka / Darbari / Java - Magic Realism』というアルバムもリリースし、マジック・リアリズムという言葉をこう説明していた。
「映像技術に於けるキーイング(色や明るさの違いを利用して映像の一部を背景から抜き出し、合成する技術)のように、
様々な時代と地理的な起源から生まれた音楽の実際のサウンドを、
ひとつの作曲のフレームに一緒に収めることは、歴史に於けるユニークなポイントを形成するのです」例えば、
アフリカ音楽というものはキーイングされることで様々な音楽に浸透していくことができ、
その彼方此方で、勝手に付加されていくサウンドが、偽装されていくファンクネスが、
上書きされていくリズムが生まれてくる。
ハッセルは自身のトランペットのコーラスをコンピュータで分解すると、パリで録音されたセネガルのドラムの上でインドのラーガのモチーフをなぞり、
そのバックグラウンドには1950年代のエキゾチックなハリウッドのオーケストレーションがうっすらと引用されるような、奇妙で美しいモザイクの世界を作っていった。
これは、そんなマジック・リアリズムを繋げていったミックスであり、
『ザ・ドリーム・シーン』の夢想が生んだもう一つのサウンドトラックでもある。
PROFILE : 原 雅明 (MASAAKI HARA)
音楽ジャーナリスト/ライターとして執筆活動の傍ら、
レーベルrings(http://ringsounds.tumblr.com/)のプロデューサー、LAの非営利ネットラジオ局の日本ブランチ dublab.jp(http://dublab.jp/)の運営も務める。
単著『音楽から解き放たれるために──21世紀のサウンド・リサイクル』、
近編著『ザ・ドリーム・シーン 夢想が生んだ架空のコンサート・フライヤー&ポスター集』